登山の低体温症対策|初期症状は「震え」ではなく「動きのぎこちなさ」

Safety & Risk Management

Introduction

低体温症というと、「ガタガタ震えだしたら危険」というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。しかし国際山岳医の市川智英氏(松本協立病院登山者外来、赤岳鉱泉山岳診療所)によると、この「震え頼み」の見分け方には注意が必要です。この記事では、低体温症の本当の初期症状と、現場での対処法、そしてこれまでの記事で紹介してきた予防策を整理して解説します。

低体温症の初期症状は「震え」ではない

WMS(Wilderness Medical Society)の低体温症ガイドライン2019によると、低体温症の初期症状は「運動障害(動作がぎこちなくなること)」だとされています。市川氏が携わる赤岳鉱泉山岳診療所の2021〜2024年度の症例では、震えがなかった症例が80%にのぼったといいます。つまり、「震えていないから大丈夫」とは限らないということです。

寒冷環境下で、次のような様子が見られたら低体温症を疑いましょう。

  • 細かい動作ができない(手袋の着脱、ジッパーの開け閉めなどがスムーズにできない)
  • 呂律が回っていない
  • ふらつきで行動が遅くなる

低体温症を疑うべき3つのサイン(細かい動作ができない・呂律が回らない・ふらつきで行動が遅くなる)と、現場での対処の3原則(隔離・保温・加温)を示した図

分かりやすい指標として、「予定通りに行動できていない≒低体温症の可能性がある」という視点も紹介されています。コースタイムより明らかに遅れている、いつもと様子が違うと感じたら、震えの有無にかかわらず、低体温症を念頭に置いて対応することが大切です。

低体温症の主な原因:低温・濡れ・強風

低体温症は、深部体温が35℃以下になった状態を指します。登山における主な原因は「低温」「濡れ」「強風」の3つです。夏山でも、稜線で雨に濡れて強風にさらされれば、気温が高くても低体温症のリスクは十分にあります。

現場での対処:隔離・保温・加温

低体温症が疑われる場合、現場でできる対処の原則は「隔離」「保温」「加温」の3つです。

  1. 隔離: 風を避けられる場所に移動し、地面に敷物をしてザックなどの下に敷く。濡れた衣服は脱がせる
  2. 保温: 顔・首・頭から熱が逃げやすいため、帽子やマフラーなどで保温する。複数人で身を寄せ合うのも効果的
  3. 加温: 使い捨てカイロや湯たんぽのような熱源を、体幹(特に胸)や首筋・脇の下・脚の付け根に当てて温める

温かい飲み物を与えるのは効果的ですが、アルコールやカフェインの入った飲料は与えてはいけません。また、入浴や暖房器具などで急激に温めることも厳禁とされています。症状が重いと感じる場合や意識がはっきりしない場合は、応急処置と並行して速やかに救助を要請してください。

これまでの記事で紹介した予防策のおさらい

低体温症は、事前の装備選びで多くを予防できます。これまでの記事で紹介してきた内容は、実はすべて低体温症対策につながっています。

Summary

低体温症は「震えたら危険」という思い込みだけに頼ると、初期症状を見逃してしまう可能性があります。細かい動作のぎこちなさや呂律の回りにくさ、予定通りに行動できているかどうかにも注意を払いましょう。低温・濡れ・強風という3つの主要因を踏まえ、装備選びの段階からしっかり予防することが何より大切です。

安全対策全般については登山の安全対策完全ガイドもあわせてご覧ください。

Title and URL copied