導入
登山の紫外線対策や標高が高いと沸点が下がる理由で紹介したとおり、標高が上がると体や環境にさまざまな変化が起こります。中でも見過ごせないのが「高山病」です。富士山(3776m)や日本アルプスなど、標高2500mを超える山を目指す方は、症状・予防・対処法を事前に知っておくことが安全な登山につながります。
高山病はどのくらいの標高から起こるのか
高山病(急性高山病、AMS)は、標高が上がって酸素の利用可能量が減ることで起こります。医療従事者向けの医学情報サイトMSDマニュアルによると、標高2,500m到達時で約25%が、標高4,340m到達時では約40%が何らかの高山病を発症するというデータがあります。
「山に慣れているから大丈夫」というものではなく、体調や登るペースによって誰にでも起こりうるものだと理解しておきましょう。

主な症状
高山病の症状は、高度を上げてから6〜10時間後に現れるとされ、次のようなものが特徴です。
- 頭痛(高山病の中心的な症状)
- 疲労感
- 食欲不振・吐き気・嘔吐などの消化器症状
- 持続するめまい
多くの場合は24〜48時間程度で軽快しますが、症状が悪化する場合は次で説明する重症化のサインに注意が必要です。
重症化するとどうなるか
高山病が悪化すると、次のような重篤な状態に進行することがあります。
- 高地脳浮腫(HACE): 迅速に治療しなければ2〜3時間以内に昏睡・死亡に至ることがある
- 高地肺水腫(HAPE): 迅速に治療しなければ数時間以内に昏睡・死亡に至ることがある
いずれも進行が非常に速いため、「そのうち治るだろう」と我慢を続けることが最も危険です。歩行がふらつく、意識がぼんやりする、呼吸が苦しいといった症状が出た場合は、すぐに次の対処法に切り替える必要があります。
予防法
高山病を完全に防ぐ薬はありませんが、発症のリスクを下げる方法はいくつかあります。
- 登るペースを守る: 標高3,000m以上では、睡眠する高度を1日あたり300〜500m以上は上げないようにするのが目安とされる。3〜4日ごとに休息日を設けるのも有効
- 1日の標高差を抑える: 1日に登る標高差が400m以上だと発症しやすいという指摘もある
- こまめな水分補給: 脱水は発症リスクを高めるため、トイレが心配でも水分補給を控えない
- 前日の十分な睡眠、高所でのアルコールを控える
- 深い腹式呼吸を意識し、酸素の取り込みを増やす
- ロープウェイなどで一気に高所へ移動する場合は、身体が順応する時間がないため、到着後1時間程度は無理せず休憩する
対処法
軽い頭痛程度であれば、休息と水分補給、以前使ったことのある鎮痛薬で様子を見ることもできます。ただし、唯一確実な対処法は標高を下げることです。中等症以上の症状(強い頭痛・嘔吐・歩行のふらつきなど)が出た場合は、我慢して登り続けるのではなく、直ちに下山することが大原則です。
パルスオキシメーター(指先で血中酸素飽和度を測る小型機器)を携行し、数値が普段より大きく低下していないか確認する方法も紹介されています。数値の目安は情報源によって幅があるため、絶対的な基準として鵜呑みにはせず、「大きく下がってきたらペースを落とす、あるいは下山を検討するきっかけにする」程度の使い方が現実的です。
なお、ダイアモックス(アセタゾラミド)のような予防・治療薬もありますが、医師の処方が必要な医薬品です。標高の高い山行を計画する場合は、事前に医療機関で相談しておくとよいでしょう。
まとめ
- 高山病は標高2500m前後から起こりやすくなり、標高4340mでは約4割が発症するというデータもある
- 頭痛・疲労感・吐き気・めまいが主な症状。悪化すると数時間で命に関わる状態(HACE・HAPE)に進行することもある
- 予防の基本は「ゆっくり登る・こまめな休息・十分な水分補給」。1日の標高差を抑えることが重要
- 症状が悪化したら我慢せず、唯一確実な対処法である「下山」を選ぶ
登山の安全対策完全ガイド、登山計画書の書き方とあわせて、標高の高い山に挑戦する際はしっかり準備をしておきましょう。

